ケース1 入社して2年目になる若手社員Aさんは、ある日B係長に本部長に提出するための営業報告書を提出したところ、「こんなあっさりした内容では部長がわからないぞ。もっと例示を入れるとか内容を膨らますとか考えろ」と指示をされ、その通りに直して提出したところ、後日、本部長から「君の報告書は内容がくどい、もっと簡潔に書け。ただでさえ時間がないんだから双方が時間のむだになるようなことをするな」と叱責されました。そこでAさんはすぐに「私もそう思ったのですが、B係長が指示したので直しました。指示したのはB係長です。今の言葉はB係長に言ってください。」と間髪いれず反論してきました。 Aさんは普段あまり反抗するような社員でなく、むしろ模範的な社員です。普段あまり部下から反論されることのない本部長は、まさか入社2年目の社員にこのようなことを言われるとは夢にも思っていなかったため、これを機に部下や若い社員の現状を観察してみることにしました。 【緊張をしなくなった若手社員】 Aさんに限らず若手社員を観察してみると、気がついた点が何箇所か見られました。例えば重要な取引先が来店する日には部署は緊張感に包まれます。私語も少なくなり、来社に備えて提案書を整えたり段取りを指示したりします。しかしよく見ると若い社員ほど緊張がなく自然体でいるように見えます。そういえば以前、係長が「若い社員と同行訪問をすると、私はとても緊張するのですが、むしろ若い社員のほうが落ち着いていると言われることがよくあります。」と言っていたのを思い出しました。 【曖昧な指示は通じない】 若手社員は「仕事は盗むもの」、「背中を見て育つ」という環境育った中堅以上の社員に比べて、一般に教えられたことや指示されたことのみを忠実にこなします。よく若い人は率先して仕事をやらないと言う声を聞きますが、その多くは曖昧な指示や標語的な指導を受けているため、何をいつまでにどれくらいするべきか、自分に求められているものは何かを理解していないことに原因がありそうです。 【理不尽には反発する】 前述のAさんの場合、以前なら「人のせいにするな」とか「おまえは担当として何も考えないのか」というような叱責が通用しました。しかしAさんの思考では、内容をくどくするように指示したのはあくまでB係長で自分は忠実に仕事を行ったわけですから叱責を受けるのはB係長であり、自分は被害を受けていると解釈するでしょう。彼には担当者としての自覚やB係長の立場というような背景となるような部分は考慮しないものであり、まして一度B係長が叱責しているので、簡単に反発することは当然とも言えます。 Aさんのケースは単純なケースですが、実は背後には実はこれだけの事象が潜んでいました。 「現場の状況を もっと知ってもらいたい」 「人員不足」 「よきアドバイスを得たい 「自分もそろそろ昇進する、 現在の仕事を 引き継がないといけない」 「市場が成熟している」 ← B係長 部長 Aさん → 「全社的な 数字の悪化の建て直し」 「多忙なため 時間が慢性的に不足している」 「従業員の非効率的な業務が 業績を悪化させている」 「若手社員の育成が急務」 「本社推進戦略の徹底」 これらの背景をAさんが把握していたら、もしかしたらこのような思考になったかもしれません。 自分のミッションは、多忙な部長にいかにして問題が山積みになっている現場の状況を理解してもらい、自分の係の今後の施策についてアドバイスをもらうかである。 ▼ そのためには、いかにして抜け、漏れがなくかつ短時間で理解してもらえるように要点を絞った報告書にまとめる必要がある。そのためには自分自身が係の状況を知っている必要がある。 ▼ 自分の係の問題は何か?人員の不足か、競争の激化か、本社の方針と現場のズレはないか、その中でも最も問題になっているのは何かを担当者レベルで考察してみよう。 実際にはこのような考察をすることはないでしょう。なぜならAさんはこのような指示を受けたわけでも方法を教えてもらったわけでもないからです。彼らにとっての仕事は指導を受け、理解したことが仕事なのです。一昔に話題になったファジー機能を求めたりすることは彼等の思考でみれば筋違いであり、理不尽な叱責はやる気を促すどころか単なる反発を招く要素でしかないのです。 【「考える」社員を育てる】 部長は今回の一件で「考える」というノウハウそのものが欠けていることを痛感しました。自分の置かれている組織や周辺の情報に敏感になり、それらの情報を分析していく中で本質的な問題を導出して自らミッションを見つけ出し、行動を起こせる社員です。このことは学校でも社会でも教えてくれるものではありません。しかし、成功した起業家や有能な社員の多くはこのような能力を身につけています。一般社員でも、営業マンでは、昨今ソリューション営業という言葉があたりまえのようになりました。旧来は単に本社の指示したものを売ることが目的であり、量を多くすることだけがプライオリティーでしたが、現在は多様化した顧客のニーズを理解せずに、盲目的に本社の推奨商品を売りつける営業マンは徐々に減りつつあります。これからの社員は、「考える」という能力が地位や経験に関係なく必須になっているのです。しかし多くの社員は行間を読むことや真意を把握しようとする訓練を受けていません。はっきりと理解できないものは理解されないままでしょう。「励め」ではなく何をいつまでに、どのくらい、どのように励むかというふうに具体的に理解させる必要があるのです。大切なのはこのような特質を考慮したうえでいかにして「考える」スキルを教え、実践させるかなのです。