食品への農薬残留については、食品衛生法により残留基準が設定されています。ポジティブリスト制とは、残留基準の設定されていない農薬が残留する食品の流通を禁止することをいいます。
残留農薬や食品添加物の規制の仕方には、基本的にポジティブリスト制とネガティブリスト制という二つの考え方があります。ポジティブリスト制は、原則すべてを禁止し、「残留を認めるもの」のみを一覧表にして示すというという方式です。ネガティブリスト制は原則自由で、「残留してはならないもの」を一覧表にして示すという方式です。それまでの日本の残留農薬の規制は、農薬について残留基準を設定し、それを超えた食品の流通を禁止するとういネガティブリスト制に則った方式でした。しかし、この方式では残留基準が設定されていない農薬については、いくら残留があっても規制できず、輸入農産物の激増のなかで問題となっていました。そこで2003年の食品衛生法の改正により、ポジティブリスト制が導入され、本年実施されます。どんな課題が考えられるでしょうか。
【輸入食品取扱業者への影響】
輸入食品の農薬残留基準違反を詳しく調べてみると、原産国の基準値は下回っているものの日本では基準値が異なるためにオーバーしてしまった、という例が多くみられます。また、輸入農産物の増加のなか、国内外で残留基準が設定されていない農薬が検出される可能性もあります。ポジティブリスト制が導入されれば、このような「悪意なき違反」はさらに増えることが考えられます。現在、残留基準値は242の農薬に設定されていますが、ポジティブリスト制になれば、700以上の農薬について設定されることになります。今後、輸入業者にとって、生産国での農薬の使用状況や残留基準値などの情報収集は、ますます重要になると思いますが、情報を集めるのは容易ではありません。例えば、生産国がアメリカやEUならば、行政が情報を公表しており、日本でもインターネットで容易に分かります。しかし、中国では残留基準値は省ごとに異なります。また、中南米、東南アジア、アフリカ等、輸入業者がそれぞれ、各国の状況を調べるのがどんなに困難か想像に堅くありません。
【ドリフトの問題】
国内と海外の農業で最も違うのは、農地の広さです。海外の農地は、あたり一面トウモロコシ畑、ダイズ畑が当たり前なのに対し、国内は、狭い地域に各農家の農地が寄せ集まって、様々な作物を栽培しています。しかも、日本は高温多湿で病害虫が多いのも特徴です。このため、農家は狭い畑でそれぞれの作物に使用してよい農薬を、細かく使い分けています。また、農薬散布のオートメーション化の進む農薬使用の現場では、防除対象の農作物に隣接する他の農作物にも農薬が飛散し、残留する可能性が否定できません。この場合、隣接する他の作物にその農薬の残留基準が設定されていない可能性がありますから、このような残留まで一切禁止すると、生産が成り立たなくなる恐れもあります。正しいやり方で農薬を使用しても、知らない間に隣の畑の農産物にかかり、検出されてしまうことが考えられます。
このような問題は直売所の野菜でも考えられます。直売所の野菜は、狭い農地で多品目を少しずつ栽培している場合も多いからです。ナスに農薬を散布したつもりが、隣の大葉にもかかって検出され、食品衛生法違反になってしまったなどという事例が出てくるかもしれません。
ドリフトの程度は、農薬が粉剤か液剤かなどの製剤方法や風速などによって大きく異なり地域によって格差があります。国内の農薬関係者は今、ドリフト対策に懸命になっていますが、現在考えられる具体的な対策は、散布時の風向きや風速に注意する/作物の近くから角度なども調節して適切に散布する/近隣作物の収穫に気をつけ、農家同士連絡を取り合う/近隣に遮蔽物を設置するなどでしょう。しかしどんなに気をつけてもドリフトを100%防ぐことはできないのは自明のことです。問題は、消費者、流通販売側の姿勢です。これまでのように「食品衛生法違反の食品は廃棄」という機械的な対処法は、制度に振り回されているに過ぎず、食べ物を祖末にするだけでなく国内の零細な農家に大きなダメージを与えることにもなりかねません。ポジティブリスト制の正しい知識を周知させることは今後重要になってくると思われます。
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