労働安全衛生法の法改正が、この臨時国会で審議されます。改正の目玉は、企業の従業員に対する安全配慮義務が強化されることです。企業が従業員に過重労働(過労死と認定される目安である、直近の1ヵ月の残業時間が100時間を超えた場合等)をさせた場合、医師による面接指導を受けさせなければならない(義務)という内容です。小泉与党の勢いから行くと国会の通過の可能性は高いでしょう。施行は最短で、来年の平成18年4月1日からでしょう。
この改正は、国として始めてメンタルヘルスに真正面から取り組んだ画期的な法改正だと言えます。企業としての取り組みとしては、どんな職種であろうと、いわゆる「深残」をさせた場合、又は「深残」を黙認した場合、翌月か翌々月には1日又は半日休みと取らせて医者へ通院させて、受診したことを証明できるもの(診断書に相当するもの)を会社に提出しないかぎり、「深残」をさせられないというルールを設定することとなるでしょう。
これは、従来から司法見解である企業の安全配慮義務を法律で「具体的な事例で義務化」した画期的な内容ですが、ではいざ、「深残」をした従業員がメンタルヘルス不全になってしまった場合、企業は医師の面談指導を受うけさせていればそれで安全配慮義務違反を免れることができるのでしょうか。
企業が「深残」した従業員に対して何ら対策を講じていなければ、当然労働安全衛生法違反になり、従業員の家族から民事損害賠償請求の訴訟を起こされます。医師の面談指導を受けさせていて、医師の指示に基づいた処置及び企業として取りうることができる最大限の配慮がなされていれば、法違反は免れる可能性があり、民事損害賠償請求も穏やかな和解に持ち込むことができるでしょう。
問題は、企業として取りうる最大限の配慮です。これは、従業員の面談結果(メンタルヘルス不全に至った原因・事象・対象者・症状等)の詳細が分かれば、取りうる配慮が具体性を帯びますが、そうでないと一般的な配慮のみとなり、場合によっては何ら効果のないものとなってしまい、結果的に安全配慮義務違反となってしまう可能性があります。
さて、ここで個人情報保護法ですが、法では法令で定めたものであれば本人の同意がなくても第三者への提供が可能となっております。要するに労働安全衛生法に基づき、従業員の面談結果を本人に了解を取らなくても企業は医師に提出を要求できるというものです。この問題は医師の守秘義務や医療倫理にも絡んできますので、要求できる、という表現にとどめておきます。
しかし、本人が第三者への提供を拒んだ場合は、企業が医師の了解を得たとしても、医師は個人情報である面談結果を企業に提供することができません。例え企業指定の産業医でも同様です。こうなった場合、企業は最大限の配慮を取ることが困難となり、安全配慮義務を履行することができません。
うつ病にかかってしまったことが会社の上司や同僚に知られたくない。うつ病は治らないかもしれないし、場合によっては解雇されてしまう、という精神的なプレッシャーは、他の病気と比較して何倍にも感じる人もいることでしょう。
メンタルヘルス不全に陥ることは、それだけで不幸なことですから、更にその不幸を増長するようなことは、絶対に避けるべきです。このような事態を避けるためには、日頃から事業場でメンタルヘルスについての正しい知識やうつ病に関しての誤解を除くように心がけて、万が一のときに、企業と従業員が一致して早期治療することができるような、信頼関係を気づいていくことが必要となります。
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